第3話:恋してるとか好きだとか

「いろんな人と話してて、『俺には夢がある』とかいろいろ話すんだけど、それ聞いてるうちに、『なんで僕はこんな人の夢の話を聞かなきゃいけないんだろう』と思ってて、『この人は結局どうしたいんだろう』とか思って、ふと気づいて、『こいつセックスがしたいんだ』と思って、ガクーンとかなった。」

神森徹也(ミュージシャン)


学生生活にもだいぶ慣れてきた。学科の女子校パワーには圧倒され放しだが、それなりに面白く感じられるようになってきた。そんなある日のこと…

カフェテリアで、僕はサークルの先輩(女性)と昼食をとっていた。食事を終えてその先輩と別れると、フランス語学科の同級生、Yさんにバッタリ出会った。が、Yさんはいきなりこんなことを僕に言い出した。
「ねえねえねえ、水野クンとさっき一緒にご飯食べてたヒトってさ、水野クンのカノジョ?」
僕は一瞬戸惑ったが、すぐに状況を理解した。吃驚仰天とはまさにこのことだった。どうしたらそういう短絡的な解釈ができるというのだろうか。僕はわざとむきになって、
「違うよ、 サークルの先輩だよっ! だいたいあの人に失礼じゃないか!」
と、語気を荒げてみせた。すると、Yさんはホッとしたような表情を見せながら、
「やっぱりね。なんかおかしいと思った、あんな美人のひとと一緒にいるなんて。」
などと、僕にしてみれば無礼極まりない台詞をのたまうのであった。
そして彼女は続けざまにこう言ったのである。
「そうかあ、水野クンのカノジョじゃなかったんだ。みんなに言っとかなきゃ。」
みんな? そう、Yさんは何と、カフェテリアにいた学科の女の子という女の子に、
「水野がカノジョと一緒にメシを食っている。」
と言い触らしていたのだ。事実、この直後にYさんは、たまたま通りかかったほかの女の子に、
「ねえねえ、あの人水野クンのカノジョじゃなかったんだって。」
と訂正を入れる始末であった。

僕は開いた口が塞がらなかった。こんなエスピオナージが行われているなんて。
しかし未だによく分からないのは、容姿端麗なYさんが、僕が女性と食事していたというだけでなぜ騒ぎだしたのか、ということだ。