第11話:遠くで見ていて

「あまりくよくよ考えたくない問題だけど、そこに学ばなければならない教訓があるのだとすれば、僕たちはそれが何であるのかを見極める必要がある。」
デイモン・ヒル(ギタリスト)


10月になって、後期日程が始まった。また、ありふれた日常に戻って行くだけだった。僕の10代は急速な終焉を告げた。

そして10月7日、僕は20回目の誕生日を迎えた。別段何の感慨も湧かなかった。ひとの言う大人になったばかりの僕は、何か複雑な心境に陥りがちだった。授業を受け、教室にいても妙に落ち着かず、その理由に気づいてはいても、どうしようもないという気持ちが僕を支配していた。

ある日、授業中に課題が配られた。僕がわざとらしく、
「きゃー、この問題分かるらなーい。」
言ったら、隣に座っていた先輩が、
「ちょっと水野君、ムカつくからそんな言い方やめてよ。」
「あ、そう。オレもムカついてたよ、ずっと。」
「…………….。」
そんな憂さ晴らしをしても、気持ちは晴れなかった。どうでもよく切り替えられるほど、簡単ではなかったのだ。

別のある日、やはりフランス語の授業中、提出した課題が返ってきた。教卓からめいめいのプリントを持って帰るのだが、この日欠席していたLさんのものだけ残っていた。僕は、このプリントを持って、日頃Xさんとよく話をしているZさんのところに行った。
「あれ、何そのプリント?」
「Iさんのですよ。」
「そんなもん、塩撒いてどっかやっちゃいなさいよっ。」
「!!!」

僕は仰天した。表面上、どんなに仲良さそうに振る舞ってはいても、その実態はコレだったのである。女の子の恐ろしさというものを、まざまざと見せつけられる思いがした。
眼にしない方がいいことだってある。たとえそれが真実であっても。

後期日程はあっと言う間に終わり、僕は、大学2年生を終えようとしていた。
自分の舵取りをするのは自分自身の筈なのに、自分が何処へ行くのかも分からないような気持ちになって、ぼんやりと過ごすことが多くなっていた。