「嵐を呼ぶ男」1999.3.15

かねて噂されていた通り、作家で元衆議院議員の石原慎太郎氏が東京都知事選に出馬を表明した。世間的には裕次郎の兄貴という印象しかないのかも知れないが、盛田昭夫氏との共著『「NO」と言える日本』などに見られるように、国政について明確なビジョンを持っている御仁である。また、運輸大臣在任中には、成田空港への鉄道アクセス改善を断行し、JR、京成の空港ターミナルビル乗り入れを実現したという実績もある。

出馬表明の記者会見で石原氏は開口一番「石原裕次郎の兄でございます」と言った。これを聞いてなんだこいつはと失笑したひとも多かろうと思うが、ウケ狙いや伊達で発した言葉ではないと筆者は見る。ミリオンセラーを記録した私小説『弟』や政治回想記『国家なる幻影』を読めば、慎太郎の人生は常に弟と共に歩んできたことが見て取れる。少なくとも、彼自身がそう信じていることは間違いなく、だからこそ、自分の側には今でも弟が一緒にいるということを強調したいがためにあのような言い方をしたのではないか?

記者会見の席上、「青島都政に得点をつけるとしたら何点ですか?」という質問に「そういう質問が一番下らない」と一蹴。後の産経新聞の取材で老人介護について問われると「こういうカネのかかる事業を役人にやらせちゃダメ」と歯切れがいい。また、F1雑誌のインタビューに応じて「東京でもモナコのようなF1レースが出来る街づくりを」と主張。今までは警察サイドが難色を示して実現しなかった点について触れ「警視総監の上に知事がいるんだから、言うこと聞かなきゃ給料払わないよ」とここでも慎太郎節を披露している。

野中広務官房長官は出馬表明の翌日に早くも慎太郎批判を始めているが、これは自民党執行部の焦りとみて間違いない。彼らがドクター中松の出馬に際してコメントをしたという話は聞いたことがない。自民党サイドが展開する批判の焦点は、石原氏が米軍横田基地の返還を主張しており、それは国政に対する干渉であり越権であるということなのだが、氏は衆院議員当時からこの問題に関して行動を起こしており、全日空の若狭会長らにはかって成田発着の貨物便を横田に置き換え、その分旅客便枠を増やしてパンク寸前の成田空港を少しでも利用しやすくしようという提案を米軍側に申し入れたこともある。この計画は一部の議員によってどういうわけか潰されてしまったのだが、この経緯を石原氏は著書で明かしているにもかかわらず、マスコミはなぜか報じようとしない。基地返還に関わる日米安保云々だけが報じられれば、軍隊アレルギーを持つ多くの有権者は「タカ派のコワい奴」というイメージを抱いてしまうことだろう。筆者としては、こういう偏向的な報道姿勢が明るみになっただけでも慎太郎出馬の意義はあったと思ってしまうほどである。

しかし、いずれにせよ嵐を呼ぶ男はやってきた。慎太郎が当選するしないに関わらず、選挙戦が俄然面白くなったことだけは間違いない。